アンデッド・モンスター「リッチ」の成り立ちと語源

リッチとは

リッチは骨と皮だけのモンスターで、強力な魔法を操ります。

リッチは、高位の魔法使いや僧侶が強力な魔法(死霊魔法、ネクロマンシー)で自分自身の体をアンデッド(スケルトンやゾンビなど)に変えることで誕生します。 人の一生では知識を追求するのに時間が足りないために自分自身を不老不死の存在へと変えてしまうのです。

アンデッドであるリッチとなった者は、人間的な俗事には一切興味を示さなくなり、知識・魔法・力のみを追い求めます。 ある意味では気が狂っています。

外見

スケルトンが骨だけが残った遺体が甦ったモンスターであるのに対して、リッチは肉が削げ落ちた存在で骨に皮だけがへばりついています。 長年をリッチとして生きるうちに眼球は腐り落ちて失くなってしまい、眼窩には光が灯っています。

リッチは大昔には豪華であっただろうボロボロの衣服を身にまとい宝飾品を身に着けています。 ボロボロの衣服を着用し続けるのは、リッチ化した時点で人目を気にしなくなるためです。 宝飾品を身に着けているのは、生前が高位の魔法使いや僧侶だからです。 宝飾品に強力な魔法が込められていてもおかしくありませんね。

戦闘能力

D&D(*)の場合、リッチは生前(アンデッド化する前)に覚えた呪文をリッチになった後にも使えます。
(*) Dungeons & Dragons(ダンジョンズ&ドラゴンズ)というテーブル・トークの(電子機器を使わないボード・ゲームの)ロール・プレイング・ゲームの略称。 D&Dは現在のRPGの元祖にあたる存在。

加えてリッチは、その姿を目にした者を恐怖に陥れる「恐怖のオーラ」や、触れただけで相手を麻痺させる麻痺攻撃を使います。恐怖も麻痺も耐性が高ければ耐えることができます。 即死攻撃を使ってくるとか、目を合わせただけでダメージを与えてくるなど特殊な能力を持つリッチも存在します。

D&Dでは、リッチに冷気・電気・精神の攻撃は通用しません。 D&Dでは、リッチは複数のバンパイアを従えていることがあります。

他の漫画・小説・ゲームでも、リッチは同じようなイメージで扱われています。

リッチを倒すには

D&Dでは、リッチがリッチ化するときにフィラクテリー(phylactery)と呼ばれる魔法のアイテムに自分の生命力を封じ込めます。 フィラクテリーのありかを突き止めてを破壊しない限り、リッチを倒しても10日以内に復活します。

フィラクテリーは「(ユダヤ教の)聖句箱」という意味ですが、D&Dでは一般的に金属製の小箱として描かれます。 小箱の中には魔法の文句が書かれた複数枚の羊皮紙が収められています。 フィラクテリーは小箱でなく指輪やアミュレット(お守り)であることもあります。

リッチの種類

善良なリッチ

リッチの多くは邪悪であるか、せいぜい人に無関心といったところですが、稀に善良なリッチも存在します。 こうした善良なリッチは、愛する存在や場所を守るなど崇高な目的のためにリッチになりました。 D&Dでは 1993年に発売された製品で初めて善良なリッチが初めて登場します。

普通のリッチは眼が赤く発光しているのに対して、善良なリッチ(Archlich や Baelnorn)は白く発光しています。

善良なリッチはターン・アンデッド(アンデッドを退散させる)を使えます。 善良なリッチは善良な僧侶(生者)によって退けられたり破壊されたりすることはありませんが、逆に邪悪な僧侶に退けられたり破壊されたりする恐れがあります。

デミリッチ

D&Dでは、デミリッチ(demilich)とは、リッチの肉体的な存在がいっそう希薄化したモンスターです。

リッチになってから膨大な年月が経過し、リッチとして存在し続けても最早これ以上得られる知識は無いという結論に至った者が、さらなる知識を求めてアストラル投射(アストラル体の肉体からの分離)により物質界を離れて別の次元へと旅するようになったのがデミリッチです。

デミリッチになると、肉体を保存するための魔法が弱まるので肉体の老朽化が進み、頭蓋骨あるいは片手の骨だけが残るといった有様になります。 肉体としてはもうほとんど存在していないものの、デミリッチは非常に強力な存在であり、大抵の攻撃は武器も魔法も通用しません。 そして、デミリッチの安寧を妨げると、デミリッチとして残っている骨の残骸が動き出して付近の生物の魂を吸い取ってしまいます。

"demi-" は「半~」という意味の接頭辞で、半神(半ば神様である存在)を意味する "demi-god(デミゴッド)" という語に使われていたりします。 したがって「デミリッチ」は「半分だけリッチ」という意味になりますが、上記の説明からすると、「半ばリッチになりかけている」という意味で「デミ」なのではなく、「半ばリッチでなくなりかけている」という意味で「デミ」なのだということになります。

その他

D&D以外のRPG(ロール・プレイング・ゲーム)や漫画、ラノベには、リッチ・キングやリッチ・ロード、グレーター・リッチ、レッサー・リッチなど様々なタイプのリッチが登場します。 大体のイメージは共通していますが、能力などの特徴は作品ごとに異なります。

「リッチ」の語源と歴史

「リッチ」の語源

「リッチ(lich)」は英語で「死体」という意味です。 "lich" という語は、古英語で同じく「死体」を意味する "līċ" に由来しています。

辞書で "lich" の意味を調べても「死体」という意味しか記載されていません。 例えば同じアンデッドの一種であるレベナント(revenant)なんかだと、古くからアンデッドという意味で使われてきた(*)のですが、"lich" に単に「死体」という意味だけで「アンデッド」という意味を持たないのです。

"lich" という語が「アンデッド」と関連付けられ始めたのは、20世紀にファンタジー系の小説で "lich" という語が盛んに使われるようになってからです。 それ以前は、"lich" という語にファンタジー的な匂いも神秘主義的な匂いもありませんでした。
(*) "revenant" の語源が、そもそも「戻って来る」を意味するラテン語 "revenir"。 「戻って来る」とは「あの世から戻って来る」。

「リッチ」の歴史

"lich" という語がアンデッドの意味で使われ出したのは 1930年前後からだと思われます。 クラーク A. スミスやロバート E. ハワードなどの当時の米国の作家が「魔法により自分自身を不老不死にした魔法使い」という存在を短編小説に描いており、その魔法使いが不老不死になった後の肉体を指す言葉として "lich" という語が使われていました。

ロバート E. ハワードの作品では「魔法により自分自身を不老不死にした魔法使い」の外見を「骨と皮だけ」と描写しています。 これはもうアンデッドのリッチそのものです。

D&Dに(最初の製品は 1974年)おけるアンデッド・モンスターとしてのリッチは、ガードナー・フォックスという米国の作家が 1969年に発表した "The Sword of the Sorcerer" という短編小説に基づいています。

日本の漫画でリッチが初めて登場したのは、1980年代後半に週刊少年ジャンプに掲載されていた「Bastard!」という漫画でしょう(「リッチ」ではなく「リッチー」と表記されていたのは著作権トラブルを懸念した結果らしい)。 アンデッド・モンスターのとしての「リッチ」は、誕生してからさほどの年月を経ずして日本に輸入されたわけですね。