RPGや小説などのファンタジー作品に登場するモンスター「ガーゴイル」。 このガーゴイルの由来とは?
1. 建築物の飾りとしての「ガーゴイル」
1.1. 雨樋の放出口
本来のガーゴイル(gargoyle)は雨樋(*) の放出口の飾り。 教会などの建物で、雨樋の放出口を色々な生物の頭部や上半身に模したのがガーゴイルです。
ガーゴイルが最初に使われたケースとして知られるのはフランスのラン大聖堂(1160年に着工、1220年に概ね完成)です。
雨水の放出口「ガーゴイル」
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1.2. 建築要素としての「ガーゴイル」の姿
ガーゴイルの姿には次があります:
- ドラゴン(フランスに多い)
- 醜い猿のようなヒューマノイド
- ライオンなどの猛獣(古代エジプトやギリシャの寺院の雨水放出口にも見られる)
- 1つの頭部に複数の胴体が付いたモンスター
- 1つの胴体に複数の頭部が付いたモンスター
- 修道士
- 半人半獣
- 擬人化された動物
- 蛇の頭部を持つ四つ足の獣
- 獣の頭部を持つ魚
- 半馬半羊
- サイやカバ(中世より後になって建てられた建築物に限られる)
1.3. 雨水放出口「ガーゴイル」の終焉
建物の高い位置に雨水放出口が取り付けられたのは18世紀初期まで(1)。 それ以降は、竪樋(2) で雨水を地面の高さにまで降ろして排水することが増えました。 それに伴い、ガーゴイルも廃れました。(1) 1724年に英国で作られた法律では、新しく作られる建物に竪樋を用いることが義務付けられました。
(2) たてどい。 垂直に取り付けられる樋。2. 雨水放出口「ガーゴイル」の語源
「ガーゴイル」を英語に戻すと "gargoyle"。 その語源は「(雨水放出口の)ガーゴイル」を意味するフランス語 "gargouille" です。
フランス語 "gargouille" の語源は不詳。 主な仮説は次の2つです。
2.1. 仮説その1
上から下に進みます。
- 「喉」を意味する古フランス語 "gargoule"
- 「うがいする」を意味するフランス語の動詞 "gargouiller" (1)
- 「(雨水放出口の)ガーゴイル」を意味するフランス語の名詞 "gargouille" (2)
(1) 「うがい」が「喉」で行われるので。
(2) 雨水が放出される音が「うがい」の音に似るので。2.2. 仮説その2
「(雨水放出口の)ガーゴイル」を意味するフランス語 "gargouille" の語源として、聖ロマン(*) の伝説もあります。伝説の概要は次の通り:
- ルーアン(フランス)に La Gargouille(別称 Goji)と呼ばれるモンスターが現れた。
- La Gargouille はコウモリのような翼と長い首を持ち、口から炎を吐いた。 つまり、ドラゴン。
- 聖ロマンは La Gargouille を十字架で降参させた。 ドラゴン退治に手を貸すことを唯一申し出た罪人の手助けを借りて La Gargouille を捕らえたとも言われる。
- いずれにせよ、捕らえられた La Gargouille はルーアンへとしょっぴかれ、そこで焼き殺された。
- ところが La Gargouille は高温の炎を吐くだけあって、頭と首が焼け残った。
- そこで、焼け残った頭部を新しく建てられた教会の壁に魔除けとして据え付けた。
この伝説が "gargoyle" の語源だとすれば、「喉」を意味する古フランス語 "gargoule" からモンスターの呼称 "La Gargouille" が生まれ、その "La Gargouille" が「(雨水放出口の)ガーゴイル」の意味になったのでしょう。
"La Gargouille" は首の長さが特徴だったので「喉」を意味する "gargoule" にちなんで名付けられたのでしょう。
3. モンスターとしてのガーゴイル
ファンタジー作品に登場するモンスターのガーゴイルは雨水放出口のガーゴイルに由来します。
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3.1. RPGのガーゴイル
(小説や映画ではなく)RPGに登場するモンスターとしてのガーゴイルのイメージは、D&D(*) が形成したものでしょう。
D&Dにおけるガーゴイルの概要は次の通り:
- 翼と角のあるヒューマノイドの姿。 空を飛べる。
- 静止時には彫像と見分けが付かない。
- 言葉を話し、感情もある。 邪悪で人を襲う。
- 戦闘では爪でひっかいたり噛みついたり。
- 体が硬いため、アダマンタイト(とても硬い貴重な金属)の武器以外では攻撃が通じにくい。
- 無機物なので毒と石化に耐性を持ち、疲れもしない。
- 石で作られているわりに動きが素早い。
- 食事も水も空気も必要としない。
3.2. 小説や映画のガーゴイル
- 米国の子供向け小説『オズの魔法使い』シリーズの1つで 1908年に発表された『Dorothy and the Wizard in Oz』に「ガーゴイルの国」が登場します。 この作品のガーゴイルは木製で、翼を持ち空を飛びます。 人間に敵対的です。
- クラーク・アシュトン・スミスが 1932年に発表した中世を舞台とする小説『Maker of Gargoyles』では、石工が自分の作るガーゴイルに意図せずして憎しみと暗い欲望を込めてしまい、それで生命を得たガーゴイルが町を攻撃し、ガーゴイルを破壊しようとした石工を殺します。
- ルイス・スペンスが 1932年に発表した小説『The Horn of Vapula』では、使い魔の悪魔がガーゴイルへの憑依を強制されます。 このガーゴイルは角の生えた山羊のような外見です。
- フリッツ・ライバーが 1943年に発表した小説『Conjure Wife』では、魔女がドラゴンの彫刻に生命を与え(ガーゴイルにして)考古学教授の殺害を命じます。
- ガーゴイルは 1984年に公開された映画『ゴースバスターズ』にも登場します。 角の生えた犬の彫像に悪魔が憑依しガーゴイルになります。
- 1994~1997年にかけて米国でテレビ放映されたディズニー・アニメ『Gargoyles』では、ガーゴイルが人を守ってモンスターと戦います。 ガーゴイルが人と仲良しです。