RPGに登場する「リッチ」。その言葉の意味は? 語源は?

RPGなどのファンタジー作品に登場する魔物の1つリッチ。 このリッチは一体どういう存在でしょうか?

1. リッチとは

1.1. アンデッドの一種

リッチはアンデッドの一種です。

1.2. リッチの誕生

現代のファンタジー作品の多くでは、リッチを次のようなクリーチャーとして扱います:

死霊術(ネクロマンシー)に長(た)けた魔法使いや僧侶が永遠の生命を欲して、魔術により自らの肉体を不死化した存在

リッチになる動機は主として「知識を追求するのに人の一生では時間が足りないから」です。

リッチ化した者は人間的な俗事に一切興味を示さなくなり、知識・魔法・力を追い求めます。

1.3. 外見

リッチは一般的に、肉が削げ落ち骨に皮がへばりついた外見です。 長年をリッチとして生きるうちに眼球は腐り落ちて失くなり、眼窩(がんか)には光が灯っています。

リッチは大昔には豪華だっただろうボロボロの衣服を身にまとい宝飾品を身に着けています。 ボロボロの衣服を着用し続けるのは、リッチ化した時点で人目を気にしなくなるため。 宝飾品を身に着けているのは、生前のリッチが高位の魔法使い(あるいは僧侶や魔法を使う貴族)だから。

2.「リッチ」という語について

2.1. 語源

「リッチ」を英語に戻すと "lich" です。 "lich" の語源は「死体」を意味する古英語 "līċ" です。

2.2. 英語の "lich"

一般的な英語辞典で "lich" の意味を調べても記載される意味は「死体、遺体」のみ。「アンデッド」の意味は記載されていません。

"lich" という語がアンデッドと関連付けられ始めたのは、20世紀にファンタジー系の小説で "lich" という語が使われ始めてから。 それ以前の "lich" はファンタジー的な匂いも神秘主義的な匂いもなく、単に「死体、遺体」を意味しました。
リッチと同じくRPGにアンデッド・モンスターとして登場する「レベナント(revenant)」には古くから「アンデッド」の意味がありました。 "revenant" は、語源がそもそも「戻って来る」を意味するラテン語 "revenir"。「戻って来る」とは「あの世から戻って来る」。

3. アンデッド・モンスター「リッチ」の歴史

3.1. 米国の小説

"lich" という言葉がファンタジー的な意味で初めて使われたのは、1930年ごろに米国で発表されたファンタジー小説です。

クラーク A. スミスやロバート E. ハワードなど当時の米国の作家が「魔法により自分自身を不老不死にした魔法使い」を題材に短編小説を書き、その魔法使いが不老不死になった後の肉体を指す言葉として "lich" という語を使いました。

ロバート E. ハワードの作品では「魔法により自分自身を不老不死にした魔法使い」の外見を「骨と皮だけ」と描写しています。 RPGに登場するリッチと同じイメージです。

3.2. RPG的なイメージはD&Dから

リッチのRPG的なイメージD&D(*) が発端です。

D&Dの発売開始は 1974年。 D&Dのリッチのイメージは、米国人作家ガードナー・フォックスが 1969年に発表した短編ファンタジー小説『The Sword of the Sorcerer』に基づきます。
(*) コンピューターを使わないボードゲームのRPG「Dungeons & Dragons(ダンジョンズ&ドラゴンズ)」の略称。 D&Dは現代のコンピューターRPGの源流にあたる。

3.3. 日本の漫画

日本の漫画でリッチが初めて登場したのは、1980年代後半に週刊少年ジャンプに掲載された漫画「Bastard!」でしょう。
「Bastard!」で「リッチ」ではなく「リッチー」と表記されたのは著作権トラブルを懸念した結果だそうです。

アンデッド・モンスター「リッチ」は、誕生してからさほどの年月を経ずして日本に輸入されたわけです。

4. リッチの戦闘能力

4.1. 強力なクリーチャー

リッチは生前(アンデッド化する前)が高レベルの魔法使いなので、平均的な人間よりも知能が高く強力な魔法を行使します。

多くの漫画・小説・ゲームでリッチは強力な存在として扱われます。 リッチがラスボスとして登場するRPG・小説・映画も少なくありません。
RPGの中には、プレイヤーが操作するキャラクターの種族(ヒトやエルフやドワーフなど)の1つとしてリッチを選べるものもあります。

4.2. 特殊攻撃

多くのファンタジー作品でリッチは、その姿を目にした者を恐怖に陥れる「恐怖のオーラ」や、触れただけで相手を麻痺させる麻痺攻撃を使います。 即死攻撃を使うこともあります。

4.3. 耐性

D&Dでは、リッチに冷気・電気・精神の攻撃は通用しません。 他の作品でも、リッチは冷気攻撃への耐性が高いのが常です。

4.4. 手下

多くのファンタジー作品で、リッチはアンデッドの兵士(スケルトンなど)を配下として引き連れます。 そうしたリッチは生前が王や貴族だったのでしょう。

D&Dのリッチは複数のバンパイアを従えることもあります。

4.5. リッチを倒すには

D&Dでは、リッチを倒すにはフィラクテリー(*) のありかを突き止めてを破壊します。 リッチの肉体を倒してもフィラクテリーを破壊しない限り、リッチは10日以内に復活します。

(*) リッチがリッチ化するとき自分の生命力を封じ込める魔法のアイテム。 英語で書くと "phylactery"。 本来の意味は「(ユダヤ教の)聖句箱」。 聖句箱は聖句が書かれた羊皮紙が入った革製の箱。 ユダヤ教徒の男性が平日の朝のお祈りのときに左腕と頭に装着する。 「聖句箱」の意味から転じて、"phylactery" には「お守り」という意味もある。

D&Dのフィラクテリーは、一般的に金属製の小箱。 小箱の中に魔法の文句が書かれた複数枚の羊皮紙が収められる。 小箱でなく指輪アミュレット(お守り)がフィラクテリーであることも。

5. リッチの種類

5.1. 善良なリッチ

リッチの多くは邪悪であるか、せいぜい人に無関心といったところ。 ですが、D&Dには善良なリッチ(Archlich や Baelnorn)も登場します。 善良なリッチは、愛する存在や場所を守るなど崇高な目的のためにリッチになりました! 普通のリッチは眼が赤く発光するのに対して、善良なリッチは白く発光します。
D&Dでは、1993年に発売されたバージョンで初めて善良なリッチが登場します。

日本のライトノベルにも、善良な(ときにコミカルな)リッチが登場します。

5.2. デミリッチ

D&Dにおいてデミリッチ(demilich)とは、リッチの肉体的な存在がいっそう希薄化したモンスターです。

リッチになってから膨大な年月が経過し、リッチとして存在し続けても最早これ以上得られる知識は無いという結論に至った者が、さらなる知識を求めてアストラル投射(アストラル体の肉体からの分離)により物質界を離れて別の次元へと旅するようになったのがデミリッチです。

デミリッチになると、肉体を保存するための魔法が弱まるので肉体の老朽化が進みます。 その結果、頭蓋骨あるいは片手の骨だけが残るといった有様に。 肉体としての存在は希薄なもののデミリッチは非常に強力で、大抵の攻撃は武器も魔法も通用しません。 デミリッチの安寧(あんねい)を妨げると、デミリッチとして残る骨の残骸が動き出して付近の生物の魂を吸い取ります。

言葉の成り立ち

"demi-" は「半~」を意味する接頭辞。 したがって「デミリッチ」の意味は「半分だけリッチ」です。
上記の説明からすると、「半ばリッチになっている」という意味で「デミ」なのではなく、「半ばリッチを卒業している」という意味で「デミ」なのでしょうか。

5.3. その他

D&D以外のRPG・漫画・ラノベにも様々なタイプのリッチが登場します。 例えば次:

  • リッチ・キング(王様リッチ)
  • リッチ・ロード(君主リッチ、領主リッチ)
  • グレーター・リッチ(強いリッチ)
  • レッサー・リッチ(弱いリッチ)

リッチの大体のイメージはファンタジー界隈で共通。 ですが、能力などの特徴は作品ごとに異なります。

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