RPGやライトノベルなどのファンタジー作品には様々なタイプの魔法使いが登場します。 例えばウィザードやメイジ。 これらの魔法使いは、どう違うのでしょうか?
1.魔法使いの種類
1.1. マジシャン(magician)
辞書が説明する "magician" の意味は極めて簡素。 次の通りです:
「ソーサラー」や「ウィザード」や「コンジュラー」と同じ意味
言葉の綴(つづ)りからして、"magician" は魔法使い全般を広く意味する包括的な言葉でしょう。1.2. ウィザード(wizard)
"wizard" の意味は「魔法を実践する者」。 辞書によっては次の意味も記載します:- 「ソーサラー」や「マジシャン」と同じ意味
- ウィッチの男性バージョン
- 女性経験が無いまま30才になった人*
* 俗語としての意味。 日本のネット文化「童貞のまま30才になると魔法使いに」に由来する。 英国の歴史ある新聞「The Guardian」でも用例があります。
「童貞のまま30才になると魔法使いに」の「魔法使い」の訳語として他の言葉("sorcerer" など)ではなく "wizard" が選ばれた点に注目したい。"wizard" の語源
"wizard" の語源は「賢い者」を意味する中世英語 "wysard"。「賢明な」を意味する形容詞 "wise" と語源的に関わりがあります。
1.3. メイジ(mage)
"mage" の意味は「マジシャン」や「ソーサラー」と同じです。1.4. マギ(magi)
ラテン語
"magi" は元々はラテン語で、"magus"* の複数形。 ラテン語 "magus" の意味は「賢い者、賢者」。 なので、ラテン語の "magi" の意味は「賢者たち」。
英語
"magus" は英語に輸入1 され、次の意味を持ちます:
- 東方の三賢者2 の1人。 "the Magi" で「東方の三賢者」全員を指す。
- ゾロアスター教の神官
- 魔法使い、ソーサラー
1 英語での発音は「メイガス」。 英語の "magus" も複数形は "magi"。
2 キリスト教の伝承に登場する3人。 幼いイエス・キリストに贈り物を持ってきたという。カタカナの「マギ」
「マギ」に「魔法使い」の意味が無いわけではありません。 でも、英語にせよラテン語にせよ "magi" は複数形。 なので理論的には、カタカナの「マギ」も「複数の魔法使い」を意味します。1.5. ウォーロック(warlock)
"warlock" の意味は「黒魔術の使い手(特に男性)」。
ウォーロックの語源が「誓いを破る者・嘘つき・裏切り者」を意味する古英語 "wǣrloga" であることから、ウォーロックは邪悪な存在だと考えられます。 ファンタジー作品でもよく悪役として登場します。
辞書によっては "warlock" の項に次の意味も記載します:
- ウィッチの男性バージョン
- 「ソーサラー」と同じ意味
- 悪魔(デーモン)
- 悪魔に由来する特殊能力* の持ち主
1.6. ウィッチ(witch)
"witch" の意味は「魔法(特に黒魔術)を使う人(特に女性)」です。
「特に」とあることから分かるように、ウィッチは必ずしも邪悪ではなく、必ずしも女性ではありません。 「ソーサレス」と同じ意味とする辞書もあります。
1.7. ソーサラー(sorcerer)、ソーサレス(sorcereress)
"sorcerer/sorcereress" の意味は次の2つ:
- 魔法使い。 ウィザードと同じ意味。
- 邪悪な霊から得た超自然的な力を使う者。 黒魔術の使い手。
1. の意味は必ずしも悪い魔法使いではありませんが、2. は悪い魔法使いでしょう。
"sorcerer" と "sorcereress"
"sorceress" という語は "sorcerer" の女性型で、意味は「女ソーサラー」*。 女性だけを指します。
いっぽう "sorcerer" は、男性限定ではなく男性も女性も指し得ます。ダンジョンズ&ドラゴンズ* では、ウィザードが魔術書で魔法を勉強することで魔法を覚える(学問的)のに対し、ソーサラー(ソーサレス)は本能的に魔法を覚えます(経験的)。
1.8. エンチャンター(enchanter)
"enchanter" の意味は「魔法使い」です。
"enchanter" には「魅了する者」という意味もあります。 ファンタジー世界では「魔法で魅了する人」の意味にもなりますが、現実世界では「容姿などで他人を魅了する人」を意味します。
エンチャント
"enchanter" の本来の意味は「エンチャント(enchant)を行う者」です。
カタカナ語の「エンチャント」はもっぱら「魔法を付与する」の意味ですが、英語の "enchant" はそうではありません。 "enchant" の意味は「~に魔法をかける、~を魅了する」など。*カタカナ語と英語の違い
カタカナ語「エンチャンター」は「付与魔術師(アイテムや人への魔力付与を得意とする魔法使い)」の意味で使われますが、英語の "enchanter" は(RPG界隈ではなく辞書の定義では)魔法使い全般を指します。
"enchanter" が「魔法使い」の意味で使われる例を次に示します。性別
辞書によっては、"enchanter" を「男性の魔法使い」に限定しています。 "enchanter" に "enchantress" という女性形があるためでしょう。
つまり次の通り:
- enchanter ・・・(男女の区別をせず)魔法使い、男性の魔法使い
- enchantress ・・・ 女性の魔法使い
1.9. コンジュラー(conjurer)
辞書に記載される「コンジュラー」の意味は次の通り:
- 霊を呼び出す人
- 魔法を使う人。「マジシャン」と同じ意味
- 「ソーサラー」または「ソーサレス」と同じ意味
語源
"conjurer" の語源は、「魔法や超自然的な力で霊や悪魔を呼び出す」を意味する動詞 "conjure" です。
召喚に限らない
おそらくは動詞 "conjure" が含有する「召喚する」の意味に影響されて、RPG界隈で「コンジュラー/conjurer」は「召喚術師(召喚を専門とする魔法使い)」の意味でよく使われます。 ですが、英語の辞書が記載する "conjurer" の意味は「魔法使い(全般)」です。
性別
上記に「ソーサラーまたはソーサレスと同じ意味」とありますから、「コンジュラー」は男性と女性を含みます。
1.10. サモナー(summoner)
「サモナー」の意味は「コンジュラー」と同じ「召喚術師」。 英語の "summoner" も同様です。
動詞 "summon" の意味が「召喚する、呼び出す」なので、この動詞に由来する名詞 "summoner" の意味は「召喚術師」です。1.11. ネクロマンサー(necromancer)
「ネクロマンサー」はRPGではよく見かける職業(クラス)。 でも、この語の辞書での扱いは軽く、この語を収録する辞書も "necromancer" の項で「ネクロマンシー(necromancy)の使い手」と説明するのみ。
その "necromancy" の意味は次の通り:
- 死者の霊とコミュニケーションを取り将来を占う業(わざ)
- 魔法、黒魔術
ファンタジー作品で「ネクロマンサー」は、「死霊魔術師」などと呼ばれ、死体からアンデッドを作り出す魔法を使います。 死霊関係を一手に引き受けるわけです。 ですが辞書の定義では、「ネクロマンサー」は「ソーサラー」や「コンジュラー」と同程度の死霊度* です。
2. 呼称の使い分け
辞書の定義では、魔法使いの呼称それぞれの間に決定的な差異はありません。 また、ファンタジー小説によっては魔法使いの呼称を、とても自由に使います。 例えば次の通り:
- ファンタジー小説『A Man of His Words』では、ソーサラーがメイジよりも能力的に一段優れる存在として描かれる。 また、「ソーサラー」を指して男性には「ウォーロック」そして女性には「ウィッチ」という言葉を使う。
- 女の子向けファンタジー小説『City of Bones』では、ウォーロックが悪魔と人間のハーフとして扱われる。
3. 魔法使い全般を指す呼称
魔法使いの総称として一般的なのは「ウィザード」や「メイジ」や「ソーサラー」。 でも、例えばウィザードとメイジの両方を登場させて両者を異なる存在として扱いたくて、その両者(ウィザードとメイジ)の総称(上位概念)が必要なときは?
そんなときは、として「マジック・ユーザー(magic-user)」や「スペルキャスター(spellcaster)」を使うとよいでしょう。
- 「マジック・ユーザー」の意味は「魔法(magic)を使う者(user)」。 何らかの魔法を使う者は、すべて「マジック・ユーザー」です。
- 「スペルキャスター」の意味は「呪文(spell)を投じる者(caster)」。「スペルキャスター」は、クリーチャーを召喚して使役する* タイプの魔法使いは含まない印象があるかも。